『JACET 基本語4000』における語彙選定の基準と手順


T.語彙の大きさ

 指導要領における中学語彙の上限が 1,050語,指導要領における高校語彙の上限が 1,900語,計 2,950語,
 これに大学一般教養において習得すべき語彙約 1,000語加えて総語彙数の目安を約 4,000語とする.


U.初版の作成手順と基準(初版「JACET基本語第1次案」(1981)より)

 この表は Kucera & Francis(1967) 及び Carroll, et al.(1971) から,それぞれ頻度, U 値に基づき 6,000語を選び,さらにLDOCE初版の定義語彙 2000語を加えて作った台帳を基礎にしている.

 米国の資料を主にしているので,綴りは米式を採用した.
 この中から固有名詞(人名,地名,国名,国民名),名詞,形容詞,副詞,動詞の変化形(〜ing を含む)のうち,規則的なものを原則として除いた(-f が -ves に変わるものは規則変化とした).

 基本的には頻度を重視するが,次の基準を設定し,委員会で協議の上,除いたり,新たに加える作業を行った.

a. Kucera & Francis, あるいは Carroll, et al. のいずれかにしか現れず,かつ頻度5000〜6000位の単語,およびLDOCEの2000語の中で必要でないと判断された語(mosque, archwayなど)を除く.
 ただし,@生活基本用語,A外来語として日本語になり広く用いられている語,B日本文化および英米文化を顕著に表わす語,C英語教育上必要と考えられる語(comma, subjectなどの文法用語など)は残す.

b. 形容詞に -ly を加えた副詞は原則として除く.ただし意味の異なる場合(hard と hardlyなど)は例外とする.

c. 不規則動詞の活用形は,頻度の高いものは採用する.

d. 複合語のうち,容易に意味が類推でき,頻度の低いもの (例:northeast)は除いた.

e. 同綴異語の区別(例:minute の名詞と形容詞,bear の名詞と動詞など)は本来ならば記すべきであるが,3つのデータだけでは不明であるので省略した.

f. 変化形のみ台帳に現れたものは原形に変える(例:allies → ally).ただし頻度の高いものは変化形のみ,あるいは両方残す.

g. -er, -or で終わる名詞でも Kucera & Francis およびCarroll, et al.のそれぞれ2,000位以内は残す(player など).

h. 基数詞と序数詞は,one,...twenty, thirty,...ninety, および first, second, third のみとする.

i. 短縮形は don't, won't のみを残した.これは発音がもとの語と異なるからである.

以上の作業の結果 4,064語の語彙表を作成した.


V.第2版の改訂(2版「JACET基本語第2次案」(1983)による) 

<選定資料と基準>

   選定資料を増補し <第1次資料のうち2),3) 及び第2次資料のすべて>,以下の基準を設定した.

1.下記の資料を第1次資料とし,原則として次のいずれかに該当すれば新しく加える.

  1) Kucera and Francis(1967) あるいは Carrollet al.(1971) の 2,000語レベルまで.
  2) Cambridge English Lexicon の Level 2 (1,215語) まで.
  3) Francis and Kucera(1982) の frequency 100 以上.
  4) Kucera and Francis(1967), Carroll et al.(1971) のいずれにも 4,000語以内に入っているもの.
  5) Longman Dictionary of Contemporary English の defining vocaburary2,000語以内のもの.

2.次の資料を第2次資料とし,増補用および削除用語彙候補抽出の参考とした.

  1)「JACET教材研究委員会アンケート調査」の結果
  2) 全英連編『高校基本英単語活用集』(改訂新版),研究社出版,1981.
  3) Pheby,J.(ed.), The Oxford-Duden Pictorial English Dictionary,Oxford University Press, 1981.
  4)「実用英語語彙リスト」別冊 The English Journal, 1983.
  5) 淀縄光洋「高校英語教科書語彙リスト」,1983.
  6) 清川英男「口語英語の基本語リスト作成の試み」『専修語学ラボラトリー論集』No.5, 1976.
  7) Faucett, L. et al., Interim Report on Vocabulary Selection, King & Son, 1936.

 <改善点と手順>

 上の資料を参考にして,次の基準を設定し,委員会で増補用,削除用単語の候補となったものをすべてカードに書き,一語ずつ検討を加えた.

 1) すべての単語は原則として語彙統計の現れている形で取り上げる.
 2) 形容詞に -lyを加えた副詞は,前回は原則として除いたが,今回は頻度の高いものは採用する.
 3) 複合語も他の語と同じ扱いとした.ハイフンが付いている語は採用しない.
 4) 前回は区別しなかったが,同綴異語(同語源であっても,現在ではその扱いを受けた方が適切であるものも含む)は区別して表記する.
 5) Francis and Kucera(1982)が加わったので,-ing 形であっても名詞として,過去分詞形でも形容詞としての頻度が高いものは採用する.
 6) 基数詞と序数詞は,前回は,one, ...twenty, thirty,... ninety および first, second, third のみとしたが,今回は fourth を加える.
 7) 短縮形は don't, won't のみとしたことは前回に同じ.
 8) 固有名詞については,前回は除いたが,今回は,「中学校指導要領別表1」にあるもの,及び「英米文化に深く関係すると判断されたもの」(Easter, Catholic など)は加える.
 9)  -er, -or で終る名詞は Kucera and Francis, Carroll et al.のそれぞれ 2,000語以内は残す.

具体的な作業手順は下記の通りである.

1) 次の資料により,委員が分担して「リストに加えるべき語」と「除くべき語」の候補を選び,1語ずつカードに書きだした.

a)増補用カード
   イ)アンケート12及び13   
 ロ)CEL
   ハ)「全英連リスト」
 ニ)Interim Report   
 ホ)清川「口語リスト」
  ヘ)EJ の Top 2000 words 
  ト)Oxford Duden の日常生活基本語 
   チ)Francis and Kucera(1982)の Top 2000 words 
   リ)「淀縄リスト」で5種類以上の教科書

  b) 削除用カード
  イ)アンケート14及び15   
  ロ)CEL   
  ハ)「全英連リスト」
  ニ)Interim Report

2) 書きだしたカードは約 1300枚となった.これをアルファベット順に並べ,1語ずつ,推薦カードの枚数,frequency などを参考にして,委員全員で,採用候補,保留,不採用を決めた.

3) その結果,加えるべき語の第1候補124語,第2候補66語,第3候補597語,除くべき語の候補301語を得た.

4) これをさらに検討した結果,加えるべき語239語,除くべき語313語を決定した.

5) その結果,総語数3990語となった.


<「JACET基本語第2次案」の語彙選定を終えて>

 今回の提案は,拘束力をもつ「語彙選定」という性格ではない.従って選定された語彙の枠の中で学習活動を行うべきである,というような意図はない.

 一般教養課程を終了した段階で recognition 用語彙として習得してほしい下限の目安を示そうとしたものである.

 例えば,このリストによってテキスト,副教材作成などの1つの参考資料とすることができよう.具体的には,このリスト以外の語には注をつける,などの工夫が考えられる.

 選定の基準でとり扱った資料では,頻度(frequency)を最優先に考えたが,分布度(range)も重要視し,3ないし4つの語彙表に共通に現れているものはできるだけ採用した.

 増補するか,削除するかの判断に迷った時は,「英語を読む能力の基礎」を養うために欠くことのできない語であるかどうかを再考し,委員会全員の合議によって採否を決した.

 従来は,語彙選定,語彙リストの作成に際しては,頻度,分布度などのデータを基本にしてきたが,他の基準,例えば熟知度(familiarity)などの客観的な基準を加える必要は十分ある,と考えている.

 この他の問題ともあわせて「第3次案」のための研究課題としていきたい.


W.改訂3版『JACET基本語4000』(JACET 4000 BASIC WORDS),大学英語教育学会(JACET)教材研究委員会1993年6月

 

はしがき

 JACET教材研究委員会は、JACET20周年記念事業の一環として、1981年10月に『大学一般教養課程における英語購読用教科書のあり方』を出版し、この中で、特に大学の2年間の課程を終えるまでに習得すべき recognition 用語彙の質と量がいかにあるべきかについて論じ、「JACET4000語」を提案した。

 その後全会員にアンケート調査をし、また多くの文献を参照することにより、この問題に関する研究を深め、1983年に『アンケート調査報告』を出版し、JACET基本語第2次案の提案を行った。

 今回は、その「JACET基本語第2次案」に、
  1)使用頻度順の5段階表示
  2)品詞名
  3)意味・機能による14分野別の情報
を加えて出版することにした。

 別表として、使用頻度順の一覧表、意味・機能による分野別一覧表を付け加えた。
 

 広く英語教育の各方面において活用されることを願っている。
 

1993年6月  大学英語教育学会教材研究委員会

  (担当理事) *村田 年    奥津文夫(前担当理事)
  (委員)     相沢佳子    長谷川瑞穂         *石川祥一
           三好重仁     森戸由久      宿谷良夫
          *杉本豊久    ◎高橋貞雄      竹前文夫
          上地安貞    ○William F. O'Connor
               矢田裕士
  (協力者)   井原浩子     大沢ミナミ     浅羽亮一
          高木道信
            (◎委員長   ○副委員長   *編集委員)


解説

1. 見出し語の総数は3990語である。

 見出し語は、次に示す5種類の資料を中心に、計12種類 の文献・語彙リストを参考にして選定された。詳しくは、『アンケート調査報告』を参照していただきたい。

  1) H. Kucera and N. Francis, Computational Analysis of Present-day American English. Brown University Press. 1967.
   2) J. Carroll, P. Davies and B. Richman, The American Heritage Word Frequency Book. American Heritage Pub. Co. 1971.
    3) P. Procter, Defining Vocabulary 2000 Words, Longman Dictionary of Contemporary English. Longman. 1978.
    4) N. Francis and H. Kucera, Frequency Analysis of English Usage. Houghton Mifflin Co. 1982.
    5) R. Hindmarsh, Cambridge English Lexicon. Cambridge University Press. 1980.

2.見出し語は、head-word(基本形)の形ではなく、word-form すなわち、派生形・変化形の形で、現実の使用頻度に基づいて登録されている。そのため、基本形が登録されていない場合もある。

3.見出し語の次の数字は使用頻度順の5つの段階を示す。

    1:1〜500位
    2:501〜1000位
    3:1001〜2000位
    4:2001〜3000位
    5:3001〜5000位

  使用頻度順の5つの段階に分ける際に典拠として参照したのは、『プロシード英和辞典』初版の「キーワード5000」である。

 「キーワード5000」にない語については、「JACET基本語第2次案」作成時の資料を参考にして、編集委員の判断で決定した。

4.品詞について

  品詞については、Longman Lexicon of Contemporary English を基本としたが、この辞典が15000語の辞典で、詳しすぎるので、基本4000語の観点から編集委員のほうで一部省いた。

 品詞の略名は次の通りである。

    n(名詞)   p(代名詞)    d(決定詞)    a(形容詞)
     ad(副詞)   v(動詞)     c(接続詞)   i(間投詞)
     pr(前置詞)

5.意味・機能による14の分野について

  それぞれの見出し語をその意味と働きによって14の範疇にわけた。

  Longman Lexicon of Contemporary English の14の分類をそのまま採用し、この分野の分け方に従った。辞書に掲載されていない語形についてはその語の基本形や変化形、あるいは同意語などを参照して編集委員が決定した。

 意味・機能(シソーラス)の14の分野は次の通りである。  

A: Life and Living Things(生・生物)
B: The Body; its Functions and Welfare(身体の機能・福祉)
C: People and the Family(人間・家族)
D: Buildings, Houses, the Home, Clothes(建物、家、家庭、衣服)
E: Food, Drink, and Farming(飲食物・飼養)
F: Feelings, Emotions, Attitudes, and Sensations(感情・感覚)
G: Thought and Communication, Language and Grammar(思考・伝達、言語・文法)
H: Substances, Materials, Objects, and Equipment(物質、器具、電気、武器)
I: Arts and Crafts, Science and Technology, Industry and Education(科学・技術、産業、教育)
J: Numbers, Measurement, Money, and Commerce(数、度量衡、金融、商業)
K: Entertainment, Sports, and Games(娯楽、スポーツ、ゲーム)
L: Space and Time(空間・時間)
M: Movement, Location, Travel, and Transport(運動、場所、運輸)
N: General and Abstract Terms(一般・抽象語)

6.「使用頻度別一覧表」について

  「アルファベット順一覧表」の全見出し語について、第1段階から第5段階まで、各段階別に単 語を示した。

7.「意味・機能の分野別一覧表」について

  「アルファベット順一覧表」の全見出し語について、A〜Nの各分野別にそれぞれ一覧表を作っ て示した。いろいろな活用法が可能であろう。


謝辞

1.『プロシード英和辞典』(1988)の「キーワード5000」を頻度順段階分けに使用することを快く許可された、福武書店と編者の方々、特に竹蓋幸生氏に感謝の意を表する。

2.Longman Lexicon of Contemporary English(1981)の14の分野分けの使用を快く許可された、ロングマン・ペンギン・ジャパン株式会社に感謝の意を表する。

3.今回の出版に際し、研究出版助成金をいただいた、言語教育振興財団に感謝の意を表する。

 


この語彙表の使い方について

 「JACET基本語第1次案」及び「同第2次案」については、教材の編集、試験問題の作成等において参考基準として利用したという報告はかなりの数で当委員会に寄せられている。

また、放送大学のテキスト『英語T(’90)』(放送大学教育振興会)には全3990語が掲載され、受講学生に利用されている。さらに全英連の基本語彙集である『全英連新高校基本英単語活用集』(全国英語教育研究団体連合会編、研究社出版、1988年)の語彙選定に当たっては、本語彙表を参考にしたことが明記されている。

 今回の改定では、さらに各種の情報を網羅したので、例えば、英語のクラスにおける段階別語彙指導、場面別表現の指導、試験問題作成の際の語彙チェックなどに広く活用していただきたい。


         目    次
  1.アルファベット順一覧表-----------------------------
  2.使用頻度別一覧表-----------------------------------
  3.意味・機能の分野別一覧表---------------------------
                        


  発行日  1993年6月15日
  編  集  教材研究委員会
  発  行  大学英語教育学会(JACET)
  代表者  小池生夫
       〒162 東京都新宿区神楽坂 1-2
       電話(03)3268-9686
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  印  刷  有限会社 タナカ企画
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